まず結論から
ハンドブック系 → 当直ハンドブック Ver.2 or 京都ERポケットブック
通読系 → 救急外来 ただいま診断中!
内科救急のレベルを上げたい → ブラッシュアップ急性腹症 第2版、女性の救急外来 ただいま診断中!、誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 感染症診療12の戦略 第2版
外科系志望 → 骨折ハンター レントゲン×非整形外科医、外傷初期診療ガイドラインJATEC
これだけあれば十分。その上で救急科へ進みたい人、研修医以上の勉強をしたい人にはstep beyond residentがおすすめです。
研修医2年間で身につけるべき最も重要な能力のひとつが救急対応です。救急の教科書はいいものが多く、どの本にも書いてあることは大体同じです。従っていろんな本を読み漁るよりも出典のしっかりした教科書をバイブルとして極める勉強がおすすめ。
①当直のお供にするハンドブック系のマニュアル本
②通読して理解を深める読み物系の教科書
この2冊体制がベストと考えます。
その上で、頻度が高い急性腹症や骨折、頭部外傷、また数は少なくとも知らないと対応にこまるマイナーな疾患対応についてさらに踏み込んだ勉強をしていくのがよいと思われます。
おすすめの教科書、また実際に読んだけどいまいちだった教科書について詳しくレビューしていきます。
ハンドブック系の教科書
超有名な2冊+最近流行の1冊を紹介します。
- 内容の網羅性:当直ハンドブック>当直医マニュアル>>京都ER
- 症候学の考えやすさ:当直ハンドブック>京都ER>>当直医マニュアル
- 持ち運びやすさ:京都ER>当直医マニュアル>当直ハンドブック
- コメディカルにもおすすめ:京都ER>>>他
当直ハンドブック
「当直ハンドブック」は当直のお供に最適な一冊。「現場の疑問を2分で解決する」というコンセプト通り、症候→ABCDE→鑑別疾患→診断→対応という流れをそのまま真似ることができます。薄いマニュアル本だとどうしても一冊で当直を乗り切るのには心もとない情報量になってしまいがちですが、この教科書は(540ページもあるので)診断後の重症度評価やコンサルトまでの流れなどきちんと抑えられています。当直をするなら3年目以降も使えるので買って損はなし。またこういったハンドブックは外傷、産婦人科、小児領域はサラッと触れるだけのことが多いのですが、比較的詳細な記載があるのも強みです。
オススメ度:★★★★☆
レベル:研修医1年目〜当直をする全ての医師
当直医マニュアル
網羅性については当直ハンドブックと大差はありませんが、診断→治療 のフェーズがメインで症候学の部分は省いており、「”研修医が”当直に1冊持っていく本」としては当直ハンドブックには劣るかと思います。
逆に言えば、鑑別・診断まではある程度できる上で用法やスコアなどのカンニングペーパーとして使うのであれば、持ち運びやすさの部分でこちらに分があるかも。
オススメ度:★★★☆☆
レベル:研修医1年目〜当直をする全ての医師
京都ERポケットブック
上記の当直ハンドブックと比べると有名ではないですが、当直のお供としてはこちらもおすすめ。かなりコンパクトで持ち運びやすいです。さすがに網羅性は当直ハンドブックには劣りますが、commonな症候の対応は一通り記載されており、大事なことはしっかりまとめられています。個人的には持ち運びやすさという点がすごく気に入っており、今後ゴールデンスタンダードになりそうだと思ってます。
minimum essenceが凝縮されているので、救急外来に携わるコメディカルの方にもおすすめ。
オススメ度:★★★★☆
レベル:研修医1年目〜研修医2年目
読み物系の教科書
ハンドブック系の教科書だけではあくまで「最低限」の対応であり、bestではありません。それぞれの疾患について更に理解を深めるのにおすすめの読み物系の教科書。
レベルとしては
もう困らない
救急外来ただいま診断中!
Step beyond resident
の順にハイレベルです。
救急外来 ただいま診断中!
通読系の教科書としておすすめなのが坂本先生の「救急外来ただいま診断中!」。
会話形式なので読みやすく、サクサク読めるのも勉強を始めたばかりの研修医1年目には嬉しいところ。2年間でこの本の内容をマスターできているか、というのが初期研修ひとつの到達目標だと思います。おすすめ。
オススメ度:★★★★☆
レベル:研修医1年目〜専攻医前半
あなたも名医!もう困らない救急・当直
あなたも名医!もう困らない救急・当直 ver.3 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻! (jmed51)
救急教育では有名な林先生の著書。各症候ごとに基本的な考え方や重要事項がまとめられています。国試が終わってから入職までの間に目を通すと同期と差がつく1冊。
オススメ度:★★★☆☆
レベル:研修医1年目
step beyond resident
改訂版 ステップビヨンドレジデント1 救急診療のキホン編 Part1〜心肺蘇生や心電図、アルコール救急、ポリファーマシーなどにモリモリ強くなる! (ステップビヨンドレジデントシリーズ)
前述の「もう困らない救急・当直」の著者、林先生が少しコミカルな雰囲気で様々な症候、疾患を掘り下げて解説した本。会話形式の内容でかなりわかりやすいですが、レベルとしてはかなり高いです。研修医にここまでのレベルを求める上級医はそういないでしょう(というか上級医もそこまで詳しくない)。1〜8くらいまでシリーズがあり読み物として面白いので、スーパー研修医を目指すなら一度読んで見ては。
オススメ度:★★☆☆☆
レベル:救急科志望研修医〜各科上級医
その他の教科書
骨折ハンター
外科系診療科に進むなら骨折の初期診療は避けては通れません。「骨折ハンター」はまさにその整形外科医以外のための骨折診療の教科書で、骨折の初期診療に携わるなら必須レベルの名著です。
まず勉強になるのは身体所見でもレントゲンでもなく病歴で骨折を診断しましょうというコンセプトです。素人の診療では「痛いところのレントゲンを撮る→折れてる?折れてない?」となりがりです。しかし「高齢者の転倒」であればほとんどが大腿骨近位部骨折であり、そこに脚のどこが痛いのかだの下肢が短縮しているかだのは正直どっちでもいいのです。そしてレントゲンで骨折がない時に身体所見で精査をしていくという流れが非常に勉強になりました。またそれぞれの骨には「折れやすい折れ方」があり、骨折線をイメージすることで自然と骨折を見つけることができるようになります。最後にそれぞれの骨折の初期対応、つまり即整形外科コンサルトすべきなのか、後日整形外科受診でよいのか、という判断基準についてもしっかり触れており、非整形外科医にとってはこれ以上ない教科書だと思います。文句なしにおすすめです。
オススメ度:★★★★★
レベル:研修医〜外傷診療に携わる非整形外科医
JATECガイドライン
外傷診療には型があります。まずABCDE、FAST、胸部骨盤Xp。D(意識)の評価をし優先すべき場面、ネックカラーの着脱基準、初期輸液へのresponderとnon responder。内科診療に比べてこうした型がしっかりしているのは、ガイドラインがしっかりしているからです。
JATECのガイドラインはガイドラインとしても非常に優秀である上に、体系的にまとめられているためそのまま外傷の教科書として使えます。3次救急で外傷診療をするなら絶対に必要で、また外科系に進むならJATECの資格は取っておいて損はありません。前述のstep beyond residentの外傷編でも、JATECガイドラインの内容を噛み砕いています。
オススメ度:★★★★☆
レベル:研修医〜全ての外科系医師
マイナーエマージェンシー
当直をしていて意外と困るのが、ボタン電池の誤飲、耳内に虫が入った、などの頻度は少ないんだけれどどうしたらよいかさっぱりわからないマイナーエマージェンシー。研修医のうちは上級医がどうにかしてくれる(というものの上級医もどうしたらよいかわからない)はずですが、一人当直の際になにもできずに困る場面に遭遇することは意外と少なくありません。
対応方法がわからないときにこの教科書があると安心です。ただとても高いし重いので、本当は病院が1冊買って救急外来に置いてもらいたいものです。
オススメ度:★★★☆☆
レベル:全ての医師
レジデントノート増刊 マイナーエマージェンシー
レジデントノート増刊 Vol.19 No.8 いざというとき慌てない! マイナーエマージェンシー〜歯が抜けた、ボタン電池を飲んだ、指輪が抜けない、ネコに咬まれたなど、急患の対応教えます!
前述のマイナーエマージェンシーと比べるとさすがに網羅性は劣りますが、個人で持つなら値段もやすいこちらも選択肢。
オススメ度:★★★☆☆
レベル:全ての医師
女性の救急外来ただいま診断中!
暴力的に大雑把な言い方をすると、女性の急性腹症は性別に関係ない急性腹症に卵巣捻転、卵巣出血、子宮外妊娠を鑑別に加える必要があり、この本の「女性の腹痛へのアプローチ」は非常にタメになります。産婦人科志望向けではなく、女性を診察するプライマリケア医が適切に婦人科に繋ぐための教科書です。
腹痛については非常に良いと思うのですが、ピルや産科領域などについては非専門医が手を出すべきではないという考え方もあり鵜呑みは禁物です。それでも腹痛の部分だけでも買う価値はあり。
オススメ度:★★★☆☆
レベル:研修医2年目〜専攻医
ブラッシュアップ急性腹症
名著です。とりあえず買っておくべき。
救急診療において頻度が高く、重症度も高いことが多いのが急性腹症。腹痛→検査→診断というだけでは物足りなくなってきます。
文献的根拠をはっきりと示してくれており、「◯%が手術を要する」とか「予後不良となる可能性が○%である」といった記載が随所に見られます。急性腹症に含まれる各疾患を横並びでなく立体的に理解するのに役立つ名著です。
腹部所見の正しい評価方法は?
腸閉塞ではどんな時外科手術をすべきか?
というような、明日からの急性腹痛診療をすぐに「ブラッシュアップ」してくれます。
オススメ度:★★★★★
レベル:研修医〜専攻医
誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた
誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 感染症診療12の戦略 第2版
COVID-19の流行により診療体制は変わりましたが、本来であれば当直中に最も多く診断する疾患は「風邪」=ウイルス性上気道炎でした。にもかかわらず、風邪の定義は何か?と言われるといまいちはっきりと答えられない。本書では風邪を「咽頭痛、鼻汁、咳嗽のを主な症候とする、自然治癒が期待できるウイルス性上気道炎」と定義しています。「風邪」と診断するには風邪以外の疾患を除外する必要があります。それぞれの発熱+αの症候別に除外すべき疾患について解説しています。
これを読めば発熱診療に自信が持てる名著、、、だったのですが、COVID-19の流行により少し変わってしまいました。
COVID-19もウイルス性の上気道炎を引き起こしはするものの、肺炎(つまり下気道炎)をきたしヒト-ヒト感染のリスクが高いため特別視力せざるを得ず、現在はCOVID-19ありきの診療となってしまいました。それでもおすすめには変わりませんが、★は-1にしておきます。
オススメ度:★★★★☆
レベル:研修医1-2年目
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